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HOME[PR]SS  「灯」の存在:うら章
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「ただいま」

学園祭2日目。
シューズアートをしているクラブで作って来たブーツを見る。
一緒に作った、ショートブーツ。
勇介もショートブーツを作ってたから、お揃いと言っていいと思ってる。
あたしから言い出したとはいえ、勇介が考えて見つけてくれた企画だった事、
それがブーツコレクターなあたしにぴったりだった事、
このブーツ履いて出掛けようって誘ってくれた事がすごく嬉しかった。
勇介とのデートまで大事に仕舞っておこうと決めて、丁寧に鞄に入れた。

同じように靴を仕舞っていた勇介が声を掛けてくる。
勇「曜灯、付き合ってくれてありがとっ!」
他愛もない会話が始まる。
あたしはその時には、そう思っていた。

曜「ううん。誘ってもらったのはあたしの方。ありがとうね。」
(ちょっと強引にねだってみたのはあたしだから。
だから、お礼はあたしが言うのがただしいでしょう、ね、勇介?)

勇「いつも学園祭の頃はバタバタしちゃうから、
友達と遊びにいったのは初めてなんだ。だから嬉しかったよ。」

曜「そう。それは良かったわ。」
(そう言えば、忙しそうにしてたっけ。
忙しいのに、あたしの我儘を聞いてくれてありがとう。
でも一つだけ、勇介は間違ってるわよ。
答えは教えてあげないけど。)
曜「でも、もうちょっと大きく出てくれても良かったのよ?」

顔を軽く背けて横目で勇介を見る。
身長差がかなりあるから、見上げる形に、上目遣いに自然となる。
勇「えっ?」

曜「女の子を誘ったんだから、そう言ってくれたらいいのよ?」
(なんだか勇介の反応がおかしいわね。
てっきりキョトンとして頓珍漢を言ってくると思ったのに。)

勇「え、えと。今日はデート、付き合ってくれてありがとなっ!」

曜「どういたしまして。また誘ってくれるんでしょう?」
(あ、気付いてくれたのね。
それに、うろたえるのじゃなくて、きちんと言ってくれたわね。
もう、緊張しちゃって、可愛いわね。
でも、頼もしいじゃない。
それなら、また我儘言っていいわよね?)

パーッと、ニッコリと、勇介が喜ぶ。
勇「うん、また誘わせてくれよっ。」

曜「期待してるわよ?あとは…、他には何かないかしら?」
(次はどこに誘ってくれるのかしら?
それは今後の楽しみにしといて、
もう一つ、あたしには聞いておきたい事があるの。
今日は学園祭よ?コンテストがあったのよ?
あたしも参加してるんだから、何かあるでしょう?)

ちょっと考えて、勇介は学園祭パンフレットをめくって見せる。
勇「んと、あと30分ぐらいが限界だけど……屋台のくじ引きぐらいなら大丈夫かな?」

曜「いや、勇介のリミットが近いのは分かってるから、無理しなくていいわ。
探してくれてありがとう。」
(あ、早速誘ってくれるんだ。
厚意は嬉しいんだけど……。
ちょっと聞き方がまずかったかしら?)

居住まいを正して真っ直ぐ勇介を見る。
曜「でもね、ちょっと違うの。」
(ダメかしら?中々上手く出来たコーディネートだったんだけど…。
うーん、もう少し育ってくれないと印象薄いのかしら?)

思わず勇介を見上げる目に力が入る。
勇介は勇介で、すごく迷っている様に見える。
昨日今日と学園祭だったのだ。
店番、宣伝、コンテスト、投票、色々あるのは分かる。
でも、あたしに言うべき事って言ったら、店番とコンテスト位だと思うのだけど?
それにしても、すごい冷や汗をかいている。
蹴るとか踏むとか、ちょっと脅かしすぎたかしら?
と首を傾げながら自己反省する。

少しして、勇介が突然表情を引き締めた。
取り敢えず何か言う気になったようだ。
端から見ても力が入っているのが分かるし、喉までならしている。
そんなに踏まれるのは怖いのだろうか。
後で謝っておこうと決めた時、
勇「え、えと、友達から……はもう始まってるから、その、付き合って下さいっ!」
頭を下げられた。

曜「え?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
(ん?今あたし、なんて言われたっけ?
”友だちから”って、何を今さらな事を。
”始まってるから”って、うん、1年くらい友だちやってるわよね。
”付き合って下さい”って、それはデートとか誘ってくれたら付き合うわよ?
ん?さっき普通に誘ってくれてたわよね?
じゃ、この付き合ってっていうのは、何を?
なに、今まで見た事ないような真剣な顔して。汗まで浮かべて。
それって、もしかして、勇介はあたしに告白し…………。)

顔が熱くなり始める。頭の上でボンっと何かが弾けた様な気もする。
目が泳いで勇介を直視出来ない。
内心が口に漏れ出してくる。
曜「え?その…、だって……、あたしは、…、水着の事を、…アレ?」
(こ、このタイミングで!?前触れなんて……、あった様な気がするけど…。
ほ、ほんきなのかしら?だって、そんな…。ひ、ひぃ!(弟の事)陽桜ネ!
パパ、ママ!あたしはどうしたら…。
ダメ、頭が上手く働かないわ。
空気、空気が欲しい!)

すぅー、ふーーーーー。
ゆっくり吸ってゆっくり吐く。酸素を体中に行き届かせる。
すぅーっ、ふーーー。
速く吸い込んで止めて、一息で吐き出す。
うん、ちょっと頭が冷えてきた。

ゆらりと顔を伏せて名前を呼ぶ。
曜「勇介。」
(あたしは、どうなの?告白されてどう思ったの?
聞きたい。もう一度、聞きたい。
そうすれば、分かると思うから。)

声が震えそうだった。顔を背けそうだった。
でも、真っ直ぐ伝えないと。しっかり向き合わないと。
曜「それ…、本気なのかしら?」
(我ながら冷めた言い方ね。
表情も、きっと怖い顔してるわよね。
ごめんね、でも虚勢張らないと顔を見ながら話ができないの。)

たじろいでうろたえる、いつもの勇介が目の前にいた。
それを見ると、不思議と落ち着いてきた。
勇「いや、さすがに本気じゃなかったら言えないでしょ!?
っていうかそっちにその気が無いとかだったら、マジごめんっ!」

冷静になってくると、勇介の態度に腹が立ってくる。
自分の周りの温度が下がっていく気がした。
曜「あたしの事はいいの。勇介が本気なら、もっと、強い言葉で言って。」
(何その日和見な言い方!勇介の本気ってその程度なの?
あたしがその気がなかったら引っ込める程度のものなの?
どっちよ!)

あたしは相当怖い顔をしてたんだと思う。
勇介は押されたように仰け反って、
でも、またあの時の様に表情を引き締めて、
あたしを真っ直ぐ見て、
勇「なら、言うよ。好きだ。付き合ってくれ。」


(うん、ありがとう。あたし、嬉しかったんだわ。)
(勇介に告白されて、嬉しかったの。)
(実を言うとね、勇介が本気なのは分かってたの。)
(あたしがその本気を受け止める為に、必要だったの。)
(正直、あたしには”恋”って良く分からないの。そういう好きって事がね。)
(でもね、勇介なら、勇介だから、嬉しかったの。)
(あたしでいいんだよね?なら、よろしくね。)


曜「うん、よろしくね。」

勇介に近づいて胸の辺りの服を摘まんで俯く。
ダメ、こんな顔を見せられないもの。
顔を真っ直ぐ見れないもの。
でも、あなたの近くにはいるよ?

それで許してね、勇介。


「好き」って言われて、どうだった?

―――――言われる事は何度もあったわよ?ーーーーー

 違うわ、「恋愛」の好き、の事よ。

―――――そんな事言われても、分からないわ。ーーーーー

 でも、受け入れたのでしょう?

―――――だって、すごくカッコよかったもの。ーーーーー

 それだけの理由かしら?

―――――ずっと年上なのに、背が高いのに、弟みたいだって思ってたもの。ーーーーー

 貴女が誘ってるように見えたけど?

―――――寂しかったから。一人で学園祭回って………。―――――

 随分気を持たすような言動してたわよ?

―――――男の子が女の子を誘うのは、一般的にデートでしょう?ーーーーー

 割り切って考えてる割には、むきになってる時があったわよ?

―――――た、ただの占いじゃない。ーーーーー

 貴女、望んだんでしょう?

―――――え、なにを?ーーーーー

 ふふ、やっと貴女と話が出来るわ。

―――――何を言ってるの?ーーーーー

 ”白嵐”たちが施した防壁のない、生の貴女とお話が出来る。貴女が貴女を望んでくれたから!

―――――あなたは、だれ?ーーーーー


 わたしは、”帳の貴婦人”。もう一人の貴女よ。
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