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HOME[PR]SS     白嵐の記憶:父親を手にした刻
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カチン―――――

妙に受話器を置く音が高く響いた。
店内はBGMが流れ、話をする談笑する客もいるはずだが、
その音を聞きつけてカウンターに寄ってくる姿が数人。

「今の電話、どこからだい?
 曜子ちゃん、そろそろなんだろう?
 気になって気になって仕方ないんだよ!」

常連の女性客だ。
お喋り好きな性格で、事情通だ。
予定日もどこかで聞きつけていたんだろう。
隠しても仕方がないから、正直に話す事にする。

「病院からだ。
 陣痛が始まり、破水もしているようだ。」

それがどういう事かは知らない。
が、いよいよなのだという思いがある。
常連の一人が、落ち着いた俺の態度に首を傾げている。

「マスター、あんた、行ってやらんでいいのか?」

実の所、俺と曜子の間では、立ち会わないという事を取り決めていた。
曜子が強く、店を開ける事を主張したのだ。

『誰かが家を守っててくれないと、私たちが帰って来る場所がなくなるもの。』

そう言って笑う妻に、俺は首を縦に振ったものだ。
今から考えれば、俺に余計な気を遣わせない為の方便だったのかもしれない。

「すぐ行っておくれ。
 曜子ちゃん、絶対心細いんだからね!」

お喋りなマダムには、俺の迷いが筒抜けらしい。

みんな、マスターのお子さんが生まれそうって事だから、今日は閉店だよ!と、
自分で仕切っているマダムをぼうっと見る。
話を聞いた客たちは、おめでとう、だの、釣はご祝儀だ、だの言いながら、
一人、また一人と勘定を済ませて帰って行く。

ついに、常連の数人だけになり、

「曜子ちゃんに、よろしくな。」

全員からご祝儀袋を渡される。
受け取るわけにはいかない、と言っても、
曜子ちゃんと子どもに渡すんだから気にするな、と無理やり持たされてしまった。

「それじゃ、また明日ね!」

最後に残ったマダムが手を振って去っていく。
その背中に深く頭を下げ、入り口の掛札を【Closed】にひっくり返した。




受付に尋ねた所、無事出産したとの事だった。
まずは、母子ともに健康と聞いてほっと安堵の息を吐いた。

客のみんなの好意で早めに来れたとはいえ、
片付けや売り上げの検算を放っておくことはできず、
出産には間に合わなかった。

いや、間に合わそうとしていなかったと思う。
子どもが生まれるという事が、まさかアレほど大事とは知らなかったからだ。
もちろん、子どもがいる友人知人はいるから、家族がどういうものかは知っている。
だが、”子ども”というものが何なのか、理解が出来ないのだ。

自分が、両親のいない場所で育ったからなのか、片親だったからなのか、
それは定かではない。
とりわけ、”父親”が分からない。
今向かう先には、妻が産んだ子どもがいて、自分は父親になる。
”父親”とはなんだ?
人生、21年かそこらしか生きていないが、俺の人生で”父親”は存在しない。
実感も、感動も、今の俺にはまるでない。空虚だ。
曜子が無事だった、その一点だけが、俺の関心だった。

こんな俺が、親になれるのか・・・・・・。


曜子の病室の前に着く。
やはり、曜子だけが気掛かりになる。
軽くノックをして、中に入った。

リクライニングされたベッドに寄りかかって体を起こしている曜子と、
貫禄のある女性看護士が視界に入る。
一瞬驚いた顔をした曜子が微笑み掛けてくるのに応えようとして、

「あら、旦那さん?
 ちょうど良かったわね。
 おめでとう、元気な双子の赤ちゃんよ。」

看護士がのいた先には、大きめのベビーベッドが一つ。
そして、その中でもぞもぞしている小さな人型が2人。

「今から抱いてもらう所だったのよ。
 はい、お母さんには弟君。
 はい、お父さんには、お姉ちゃん。」

首をしっかり支えるように、とアドバイスを受けながら、
小さなそれを受け取る。

髪の毛も、歯も生えていない。
肌は紅く、シワシワな顔。
眠っているのか目は閉じていて、口だけもにゅもにゅと動かしている。

おおよそ人のように見えない小人を、抱きながら真っ直ぐ見る。

一筋だけ、涙が頬を流れた。

曜子も看護士も驚いた顔をしたが、二人ともすぐに笑顔になる。
看護士は気を利かせてくれたのか、家族水入らずになる。


俺は、感動していた。
腕から伝わる温度が、小さくてもしっかり脈打つ鼓動が、寝息のリズムが、
腕に抱くこの子を自分の子だと伝えてくる。
理屈じゃなく、そう、確信した。

顔を上げると、曜子と目が合う。
近寄って頬を撫でる。

「ありがとう。
 よく頑張ってくれた。」

俺は理解した。
生命が産まれるという事のすごさを。
これだけ力強い命を、生み出す事の大きさを。
その大仕事を終えた本人は、優しい笑みを向けてくれていた。

屈む様にして、曜子が抱いているもう一人の頬にそっと触れてみる。
この子も同じ、俺と曜子の分身だと確信する。
二人を交互に見ながら、俺は思わず話しかけていた。

「ようこそ。
 俺たちの世界へ。
 産まれてきてくれて、ありがとう。」

この日、この瞬間、俺は親になった。
そして、俺の人生で、初めて”父親”を手に入れたのだ。
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