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HOME[PR]SS   「灯」の存在:独章
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『ふふ、そっかぁ。』

『だいじょーぶだよ、よーひちゃん。
なんにも、なーんにも特別な事はする必要、ないの。』
『一緒にお出かけして、同じ目の高さで同じものをみて、綺麗だねって言って。
一緒に、おいしいものを食べて、おいしいね、って言って、笑いあうの。
手をつないでね、隣同士の手のあったかさを感じて、同じ時間を過ごすの。』



『 ――――― ただ、それだけ。 ―――――― 』



やっぱり、誰よりも先に陽桜ネに相談に来た。
あたしにとって、一番身近で信頼している女の子。
いつもあたしの方が”お姉さんみたい”とみんなに言われるけれど、
あたしにとっては紛れもない、”姉”。
どきどきしながらその幼馴染の言葉を待っていた。
実を言うと、自分がこれ程”恋愛”に耐性がなかった事に不安があった。

勇介の言葉を思い出しては熱くなって何も手に付かず、
勇介の顔を思い出しては一人でオロオロしてしまう。

まるで”自分が自分でない”様な感覚。
だから、あたしは自分を落ち着けれる場所を求めていた。
「そ、そんな事でいいのね?
今まで通り、とほぼ同じなのね?」

陽桜ネが言ってくれたアドバイスは、あたしには意外で、
でも、期待通りあたしを落ち着けてくれた。
やっぱり陽桜ネは頼りになる。
それでもちょっと不安はあるから、念押しした。
きっと陽桜ネは、笑って背中を押してくれると信じてるから。

だから、いつものあの笑顔を見たくて俯いていた顔を上げると――――


”そこには自分の知らない陽桜ネの微笑みがあって内心戸惑った。”


ふわりと優しげで、嬉しそうで、懐かしそうで、
そして、
寂しそうな、どこか遠くを見ているような、そんな笑顔で、
いつも通り、今まで通りに、肯定するように頷く陽桜ネ。

あたしの知らない陽桜ネが、この舞台に姿を現したのだった。




『それじゃ、ひおが、よーひちゃんに魔法をあげる。
いっぱいかわいくなれる魔法♪

恋する乙女がかわいくなるのには、こーゆー魔法が必要だから♪
ひおのお気に入りの小物を、あげる♪

いっぱいかわいくして、いっぱい、かわいいって言ってもらえばいいよっ。』

「え、あ、ありがとう。」
差し出された包みの中を見れば、様々なお洒落用品が入っている。
あたしは使ったことのないそれらを、一つ一つ見る。
シュシュ、付け爪、そしてリップ。
「素敵………、ありがとう。陽桜ネはやっぱりお姉さんね。」
これでオシャレをして、勇介が紅くなっている所を想像して、
恥かしいような嬉しいような気持になる。
”恋愛”に効く魔法、本当に素敵だと思った。

でも、あたしはここで気が付いてしまった。
お気に入りらしいこれらの小物。
陽桜ネがこれらを使ってオシャレしている所を見た事がないはずだったから。
それはつまり、陽桜ネも”誰かに恋していた”のではないか?
でも、それは確かめてはいけない気がした。
それに、もう一つ予感がある。

今これを”ここで渡す”理由が思いつかない。

『もしも――――― 』

『もしもゆーちゃんがよーひちゃんを泣かせることがあったら、
ひおが、ぐーぱんちでなぐったげるから安心していいよ。
だから、安心して、めいっぱいかわいいよーひちゃんをゆーちゃんに見せちゃえ♪』

もう一度”あの”微笑みを見せて、陽桜ネは優しく頭を撫でてくれる。

やっぱり違和感があるけど、あたしもいつものように返す。
「大丈夫よ、簡単に泣かないもの。逆に、あたしが踏んでるかもしれないわよ?」

お互いにくすくすと笑い合う。

あたしの事を想ってくれる陽桜ネ。
あたしたちの事を祝福してくれる陽桜ネ。

でもやっぱり違和感がする。
陽桜ネだけど、陽桜ネではない何かを感じるのだ。
そして、あたしでも踏み込めない、そういう何かがあたしを、
もしかしたら陽桜ネ自身も、不安にさせている。

この雰囲気は、なんだろう?
そう、これは、

旅立つ前に、大切な人に贈り物をする、そういう行為ではないのか。



「陽桜ネ、どこにも行かないわよね?」
恐る恐る尋ねる。予感がするから。
これは相手を困らせるかもしれないけど、聞かなければならない。
これしか聞けないから。
これ以外は、あたしには踏み込めない、踏み込んではいけない事だと思うから。

『……、』

自分の問いかけに、困ったように微笑みを向けてくるのを見て、理解してしまった。
いや、最初から分かってた。
自分の予感は、的中したのだ。


「そ、そんな……。なん、……、どうし…………。」
俯いて視線をさまよわせる。
自分が非常に狼狽えているのが分かる。
理由を尋ねるその言葉を無理やり呑み込むのが精いっぱい。
ダメだ。聞いてはいけない。自分には「資格」がない。
資格があるなら陽桜ネは話をしてくれるはずだから。

そう、それが、あたしが踏み込めないと思った理由。

頭のどこかでは、誰にでも踏み込んでほしくない部分がある、と分かっている。
なのにどうして、自分はこういう状況でいつも通り大人の態度が取れないのだろう?
(そう、無理には聞かないわ。ごめんなさい。)
そう言って流せないのだろう?
分かっている。
踏み込むことを言外に拒絶されているからだ。
分かっていても、あたしはそれが悲しくて仕方ない。

あたしは自分が恨めしかった。
いつも冷静で大人な言動をしていながら、肝心な所で何も出来ないから。
ただ、立ち尽くすだけ。
何かを言うと、別れが決定的になりそうで、怖くて怖くて、前にも後ろにも進めない。

あたしはすっかり、自己嫌悪に陥っていた。
何が?どこが?間違ってたの?
答えもなく、声にもならない思いが胸を締め付けてくる。
どうしてあたしは陽桜ネに何もしてあげられないの?

ぽつりと『……ごめん、ね』という囁きが聞こえる。
バッと顔を上げて思わず目を見開く。
今にも泣きそうで、それでも笑顔のままの陽桜ネがいた。

そして、あたしが避けたかった未来がやってくる。
『 ……よーひちゃんは、何も悪くない。』
ちがう、ちがうの陽桜ネ!

『……悪いのは……』
お願い、それ以上言わないで。お願いだから!

『………「あたし」、だから。』

時が止まったかのように、空気が重たくて息が出来ない。
陽桜ネは、自分の知らない誰かになってしまった。

「え…、陽桜ネ、今自分のこと、なんて………?」
同時にあたしの髪を撫でる暖かな手。
昔陽桜ネに褒められてから、あたしが誇りにしている自慢の銀糸に触れる手。
そのまま頭をそっと胸元に抱き寄せられる。
一つしか違わないのに、拳一つ分も背の高い陽桜ネ。
ふわりと暖かな香りが広がる。あたしの大好きな人の匂い。
いつも通りの”ひお”でいる事をやめてしまった、陽桜ネ。

『……ごめんね。』
聞き馴れたその声は震えていて―――
銀糸に雫が落ちた音が、確かに聞こえた。
瞼が熱くなる。何かが湧き上がってくる。
ダメ、今泣いたらダメ!
みっともなく狼狽えて、駄々っ子の様に大人な自分を拒否して、
たくさん陽桜ネを傷付けてきたのに、これ以上陽桜ネを傷付けちゃダメ!

陽桜ネがそっと離れて行く。
泣きそうな目元はそのままに、”いつも通り”の日向の様な笑顔を見せる。
涙が溢れる所など、陽桜ネはあたしに”見せてもくれない”。 

そして
あたしに背を向けて、振り返らずに走り出す陽桜ネ。
呆然となったあたしの目に、陽桜ネが酷くゆっくり走って遠ざかっていく姿が見える。

ぼんやり右手を前に掲げて、それでも何も言えないまま心だけが張り裂ける様な叫びをあげる。

陽桜ネ、待って!あたしが悪いの!
こんな時に力になれない、あたしが悪いの!
いいえ、あなたから”大事な人”を取ったあたしが悪いの!
走りゆく背中に、言葉に出来ない、してはいけない言葉を叫ぶ。

大事な人、陽桜ネにとっての。
あたしたちの日常から、あたしは2人も陽桜ネから大事な人を奪ってしまった。
だから、あたしから陽桜ネは去っていくのだ。
だって、あたしは陽桜ネから大事な”妹”を奪ってしまったから。
桜色が道の角に消えた後、我慢していた涙がついにボロボロ零れ始める。
ぽたぽたと地面に落ちては濡らす。
膝から崩れ落ち、止め処なく涙を流す目を拭う事も忘れる。
力なく膝に乗せていた手の甲に、一滴、銀糸から雫が落ちて跳ねた。
涙で滲む視界が暗幕で閉ざされる様に暗くなっていく。


――――――― ふふふ、第一幕はこれにて終了ね ーーーーーーー

心の奥から声が聞こえた。
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