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当ブログは株式会社トミーウォーカー様が運営されるPBW,「TW4:サイキックハーツ」PCのサイドストーリーや、不定期日記などを掲載しています。知らない方は回れ右でお願いします。 なお、掲載されるイラストの使用権はプレイヤーに、著作権は作成したイラストマスター様に、全ての権利は株式会社トミーウォーカー様が所有します。無断使用はお断りさせていただきます。
HOME[PR]SS   「灯」の存在:幕間:桜色の陽に曜(てら)される灯
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「「ただいま。」」
それはあたしが弟のひぃ(灯曜・ひかり)と保育園から帰ってきた時の事。
ママが鞄を受け取って着替えを出してくれる。
スモックを脱いで二人で着替える。
「ママ、ひらひら、動きにくいよ?」
あの頃からあたしはスカートが得意じゃなくて、ママに向かって唇を尖らせた。

同年代のみんなと、どこか違うあたし。
ひぃがいつも一緒に居てくれるから、あたしの周りにはたくさんの友だちがいたけど、何かが違う。
面白くなかったのだと思う。
菜園の手入れやお茶の事、料理の事、舞踊の事。
パパとママがやっている事にしか興味がなかったから。
特に、女の子同士の遊びが苦手だった。

おままごと。

〈ふり〉をして遊ぶ意味があたしには分からなかった。
みんな同じ服を着て、同じ様な内容で、毎日同じおままごとをしている。
何も変わり映えのしないそれが、保育所という所が、あたしは嫌いだった。
みんながロボットか何かに見えていたのかもしれない。
人に魅力を感じない、人の事を見ようとしない、あたしは捻くれた子どもだった。

着替えを終えて、パパのいるお店の方に向かう。
結局ママは取り替えてくれなかったからスカートのままだった。
ひぃはママの手伝いをしてから、後で来ると言ってた。
一人でお店に通じる廊下を歩き、ホールに出る。
それは、あたしの変わらない毎日が終わった日になった。


丁度来客があったようで、パパが入り口で接客していた。
和服を着ていて、髪の毛は綺麗な金で、パパより少し背が低い位の人だった。
知り合いだったのか、しばらく話し込んでいた。
そんなパパが、ふとしゃがんでポケットから包み紙を取り出した。
あれにはパパ手製の飴が包まれている。
子ども連れだったのか、飴を渡すパパ。
次にはパパの肩の向うに桜色がピョンピョン跳ねているのが見えた。
立ち上がってお客さんと話し始めるパパの足目掛けて飛びつく。
あたしが飛びついた程度ではビクともしないパパの足越しに、そーっと覗き込む。

そこであたしが見たのは、

輝く様な笑顔と、眩しく感じる様な明るい雰囲気を纏った、
とても可愛い同い年くらいの女の子だった。

「曜灯、お帰り。俺の友達で、輪音だ。」
「初めまして、曜灯ちゃん。実はわたしは曜灯ちゃんにも灯曜くんにも小さい時に会ってるんだけどね。」
見上げた先にはふわりと笑うすごく綺麗な人がいて、あたしは目が離せなくなった。
「大きくなったのね~。あ、そうだ。陽桜、ご挨拶は?」
「は~いっ!」
思わず見惚れていたけど、元気な声が目の前からしてそっちに顔を向ける。
「ひおはひおなのー!よろしくね、よーひちゃん!」
パーッとお日様に照らされる様に心が温かくなる笑顔。
こんなに眩しい女の子を、あたしは見た事がない。
「……たまきようひよ。」
気圧されてぼそりと呟く。
パパにそっと押し出されて女の子の前におずおずと立つ。
「わー、キレイな髪の毛とおめめなの!かわいいー♪」
女の子に手を握られてドキッとする。
「あ、…あの………?」
「なにがすきなのー?いつもなにしてあそんでるのー?おともだちいっぱいいるー?」
勢いに押されるあたし、目の前にはニコニコと眩しい桜色。
「ねー、ひおのおともだちになってくれる?」
あたしはその眩しさに、思わず頷いていた。



「よーひちゃんは4さいなんだー。ひお5さいだから、ひおがおねーちゃんだねっ!」
出会ってから2日目、桜髪の女の子が一人で遊びに来ていた。
「そうね、一つおねえさんね。」
二人で店のテーブルを囲んでお茶を飲んでいる。
ホットでストレートを飲むあたしと、アイスでミルク・ガムシロップたっぷりで飲む女の子。
女の子が一方的に質問し、あたしがそれに答えるだけの会話。
それでも女の子はあたしのそっけない返事に、たくさんの装飾を付けて投げ返してくる。
この調子で、あたしの事は粗方聞き出されているのだ。

そして、次の質問はちょっと気まずい返事から始まる。
「○○ほいくしょよ。あんまりすきじゃないの。」
えっ?という意外そうな表情をして女の子は質問を続ける。
「おともだち、いないの?」
「ひぃ(弟の事)のおともだちなら、いっぱいいるわね。」
「みんなであそんでないの?」
「みんなであそぶの、すきじゃないの。」
「だめだよっ、そんなのっ!」
テーブルを両手でぱすっと叩き立ち上がる女の子。
ぷんぷんと怒った顔でまくしたて始める。
「おともだちはだいじなんだよっ!いっぱい作らないとっ!
それに、みんなといろんなことしてあそぶのたのしいのにっ!」
「なんだかね、ちがうっておもうの。」
一方、落ち着いた口調であたしは答える。
当然、何が違うのか、と質問が返ってくる。
「おもしろくないの。おままごととか、ただのごっこだもの。」
今思い返しても、大人びた事を子どもの理論で語ってたと思う。
いつもこんなことを言うから、みんな離れて行くのだ。
案の定、桜髪の女の子も難しい顔をして…、いや、すぐにニッコリ笑う。
「なら、ひおとおままごとしよーっ!」

店の裏口から出ると庭があり、そこに茣蓙を敷き、小さなちゃぶ台を置き、
おもちゃの茶碗などを並べる。
女の子はぺたんと座ってお客さんが来るのを待っている。
「お、おじゃまします…。」
おずおずとお客役のあたしが訪問した所で、おままごとが始まった。
結論から言うと、やっぱり面白くない。
〈ふり〉をするというのが、どうにもあたしに合わない。
「ひお…ちゃん、やっぱり面白くないわ。」
「ちがうの!それはよーひちゃんがたのしくしようとしてないだけなの!」
ため息交じりに訴えてみたら、火を着けてしまった。
「たのしくするために、いっぱいかんがえてあそぶんだよ。
そうしないからつまらないんだよっ!」
すごく怒られてしまった。
ここまで言われると、あたしもムッとくる。
何か、この子が出来ないようなことを見せつけて、
おままごとが面白くないことを教えてあげようと思った。

「それじゃ、あたしがおもてなしする方やるわ。」
言い捨てて自分の部屋に向かう。
目当てのものは、結構本格的なティセット。
ママにお湯も用意してもらって、一式を庭のちゃぶ台に並べて行く。
女の子は驚いたようにあたしの事を見ていた。
準備が終わって、お客役に、いいわよ、と告げる。

こうして、第2ターン目が始まる。
「おじゃましますなの!」
言うなり席について待ちの構えをとる女の子。
「紅茶はいかが?」
あたしが尋ねて女の子が、いただくの、と返す。
いざ、逆襲の時。
あたしはポットの蓋を取って茶漉しを取り出す。
ティキャニスターから茶葉を、計量スプーン2杯分を茶漉しに入れる。
茶漉しを振って茶葉を平らに均し、ティポットにセットする。
熱湯を茶葉に均等に掛けて20秒待つ。
その間にカップにもお湯を注いでウォームする。
最初の蒸らしが終わったら、ゆっくりゆっくり熱湯を注いでいく。
ポットの中に2人分のお湯を張ったら、蓋を閉めてタイマーを掛ける。

「よーひちゃん、なにやってるの?」
女の子が聞いて来る。
あたしは感情のこもってない目を向けて淡々と答える。
「お茶を淹れてるの。もうちょっと待ってて。」
約2分後、タイマーが鳴る。
そこから蓋をずらしてさらに1分。
ポットから茶漉しを外して入れ物に片付ける。
カップからお湯を捨て、中を拭いて水分を飛ばす。
ポットを掲げ、カップに琥珀のお湯を注いでいく。
二人分のカップを満たし、片方を女の子に差し出す。
「お待たせ。どうぞめしあがれ。」
ふわりと立ち上る湯気に、紅茶の香りが広がる。
〈ふり〉ではない、本物のお茶会。
これを経験したら、おままごとなんてつまらなくて出来ないと思うはず。
そんな事を思いながら、あたしは女の子を見る。

女の子は、目をすごく輝かせてカップを凝視していた。
「ねぇ、よーひちゃん。これ、飲んでいいの?」
こちらを見ずに尋ねられたから、もちろん、と返した。
女の子はそっとカップを持ち上げ、ふーふー、としばらくしてから一口紅茶を啜った。
「おいっしー!よーひちゃん、ほんものいれれるんだね!すごいの!」
すごい勢いで褒められた。
熱いから一気に飲めないが、一口啜っては瞳を輝かせ、
一口啜ってはあたしを褒める。
そうして、カップが空になった時に、女の子はこう言った。
「これ、おままごとしてるときにやってあげたらみんなよろこぶよ!」
強力なカウンターをもらった気分だった。
おままごとはそのままに、お茶会だけ本当にやったらいいと言うのだ。
「うん、みんなとあそんで、おちゃのんで、ぜったいたのしくなるの!
ひおがほしょーしますっ!」

その日の夕食後、帰り際の女の子の言葉を思い出していた。
『あした、ほいくしょでぜったいやってみること!
たのしくなるはずなの!おねーさんをしんじなさい。」
えっへん、と胸を張って帰っていった女の子。
なぜだか分からないが、あれだけ自信満々に言われると信じてみようと思えた。
「ママ、あのね。あした先生にたのんでもらいたいことがあるの。」

「ただいま」
少し遅めの帰宅。
そう、おままごとでお茶会をした結果、人気者になって今まで人に囲まれてたのだ。
〈ふり〉の中に本物を混ぜて、みんなに喜んでもらって。
そうして過ごした時間は、すごく楽しかった。
始めて、人の輪の中に入って楽しいと思えた。

「おかえりー。きょうおちゃかいやってみた?どうだったの?」
当然の様に店でアイスティを飲んでる女の子。
パーッとお日様の様な笑顔を見てると、素直になれる気がして、
「うん、みんなよろこんでたわ。ありがとう。」
始めて、家族以外に笑顔を見せれたと思う。
それを見て女の子はさらに嬉しそうな笑顔になる。
「さくせん、せいこうなの!」
詳しい状況を聞きたいと言われたので、二人してお茶を飲みながら話をした。
起こった出来事を一つ話すたびに、女の子は大袈裟なくらい喜んでいた。
一通り話し終えた後に、女の子はあたしの頭にそっと手を伸ばしてこう言った。
「ね、おねーさんのいうとおり、だったでしょ?」
優しく撫でてくる女の子に、対抗心ではなくて嬉しさが込み上げてくる。

「そうね、あなたのおかげよ。ありがとう、ひおね。」

『姉さん』とは呼びたくなかったから、もっと縮めて「ね」でいいわよね。
あたしの世界に、色と輝きをくれた人。
でも、あたしにお姉さんが出来たみたいで、すごく嬉しかった。
そういう、あたしと陽桜ネの、最初の思い出。
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