忍者ブログ
当ブログは株式会社トミーウォーカー様が運営されるPBW,「TW4:サイキックハーツ」PCのサイドストーリーや、不定期日記などを掲載しています。知らない方は回れ右でお願いします。 なお、掲載されるイラストの使用権はプレイヤーに、著作権は作成したイラストマスター様に、全ての権利は株式会社トミーウォーカー様が所有します。無断使用はお断りさせていただきます。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。








『・・・・・・・・・・なさい。
 眷属よ、集いなさい。』

頭の片隅で声が響く。
いや、そんなにはっきりしたものじゃない。
聞こえたか聞こえないか、その程度の弱々しいもの。

だけど、

それの発信源は奇妙なほどに確信を持てる。

あたしは気のせいと自分に言い聞かせて走り出す。
陶酔館プロテルヴィアを一度振り返ってから。


PR







 今日はやけに薄暗い日差しで、体が重くて動きづらかった。
すっかり馴染んだいつもより薄く見える庭に降りて歩く。
ここなら見つからないだろう――――――。


「「”――”みーつけたっ!」」
無邪気な声で私を呼ぶのは、双子の姪と甥。
弟の小さな宝物たち。
もちろん、それは私にとっても、だ。

「どうしていつもとちがうところにいるの?」
やや無表情だけど弟の奥さんに似た吸い込まれる様に輝く金色の瞳と、
弟の様なきめ細かい銀色の髪、――だったと思う――、を持った姪が訪ねる。

『今日はここに居たい気分だったのよ』

「こんなひかげはもったいないよ。こんなにいいおてんきなのに。」
こちらはにっこりとした表情の甥。
弟の色素の薄い灰目を受け継ぎ、義妹と同じ赤銅色の髪をしているはずの、
小さい頃の弟の面影の強い子が言う。

『そうなの、ちょっと日差しがきついのよ』

二人に手を貸してもらって、ゆっくりと色の褪せた美しい庭を家に向かう。
いつの間に、これ程広く感じる様になったのか。
手入れの行き届いた菜園、良い香りを放つハーブのプランター群
そよ風にそっと揺れる洗濯物。
姪と甥の砂場セットや三輪車。
見慣れたけど、褪せた色をした庭。
ゆっくり時間をかけて歩き、私のお気に入りの場所、
庭を一望できる縁側に着く。

いつも座っていたその場所に、”今日は”腰を下ろした―――。






カチン―――――

妙に受話器を置く音が高く響いた。
店内はBGMが流れ、話をする談笑する客もいるはずだが、
その音を聞きつけてカウンターに寄ってくる姿が数人。

「今の電話、どこからだい?
 曜子ちゃん、そろそろなんだろう?
 気になって気になって仕方ないんだよ!」

常連の女性客だ。
お喋り好きな性格で、事情通だ。
予定日もどこかで聞きつけていたんだろう。
隠しても仕方がないから、正直に話す事にする。

「病院からだ。
 陣痛が始まり、破水もしているようだ。」

それがどういう事かは知らない。
が、いよいよなのだという思いがある。
常連の一人が、落ち着いた俺の態度に首を傾げている。

「マスター、あんた、行ってやらんでいいのか?」

実の所、俺と曜子の間では、立ち会わないという事を取り決めていた。
曜子が強く、店を開ける事を主張したのだ。

『誰かが家を守っててくれないと、私たちが帰って来る場所がなくなるもの。』

そう言って笑う妻に、俺は首を縦に振ったものだ。
今から考えれば、俺に余計な気を遣わせない為の方便だったのかもしれない。

「すぐ行っておくれ。
 曜子ちゃん、絶対心細いんだからね!」

お喋りなマダムには、俺の迷いが筒抜けらしい。

みんな、マスターのお子さんが生まれそうって事だから、今日は閉店だよ!と、
自分で仕切っているマダムをぼうっと見る。
話を聞いた客たちは、おめでとう、だの、釣はご祝儀だ、だの言いながら、
一人、また一人と勘定を済ませて帰って行く。

ついに、常連の数人だけになり、

「曜子ちゃんに、よろしくな。」

全員からご祝儀袋を渡される。
受け取るわけにはいかない、と言っても、
曜子ちゃんと子どもに渡すんだから気にするな、と無理やり持たされてしまった。

「それじゃ、また明日ね!」

最後に残ったマダムが手を振って去っていく。
その背中に深く頭を下げ、入り口の掛札を【Closed】にひっくり返した。









9月13日の夜。
嫌に落ち着かない気持ちになって、ベランダに出てみる。
こういう時は、外の空気に触れるのが昔からの習慣だった。
夜空は晴れていて、都会とは言え、良い月が見えている。

そう言えば、今日は新月だったと思い出す。
日食は昼間に終わっているが、
月が新しい命を得て蘇ったかのように煌々と照らしている。
それには魔術的な力があるのかもしれない。

月の放つ不思議な魅力に引き出される様に、
9月11日の金曜日の事を思い出す。
曇りのない月に映し出すかの様に、情景が蘇る。









「「ただいま。」」
それはあたしが弟のひぃ(灯曜・ひかり)と保育園から帰ってきた時の事。
ママが鞄を受け取って着替えを出してくれる。
スモックを脱いで二人で着替える。
「ママ、ひらひら、動きにくいよ?」
あの頃からあたしはスカートが得意じゃなくて、ママに向かって唇を尖らせた。

同年代のみんなと、どこか違うあたし。
ひぃがいつも一緒に居てくれるから、あたしの周りにはたくさんの友だちがいたけど、何かが違う。
面白くなかったのだと思う。
菜園の手入れやお茶の事、料理の事、舞踊の事。
パパとママがやっている事にしか興味がなかったから。
特に、女の子同士の遊びが苦手だった。

おままごと。

〈ふり〉をして遊ぶ意味があたしには分からなかった。
みんな同じ服を着て、同じ様な内容で、毎日同じおままごとをしている。
何も変わり映えのしないそれが、保育所という所が、あたしは嫌いだった。
みんながロボットか何かに見えていたのかもしれない。
人に魅力を感じない、人の事を見ようとしない、あたしは捻くれた子どもだった。

着替えを終えて、パパのいるお店の方に向かう。
結局ママは取り替えてくれなかったからスカートのままだった。
ひぃはママの手伝いをしてから、後で来ると言ってた。
一人でお店に通じる廊下を歩き、ホールに出る。
それは、あたしの変わらない毎日が終わった日になった。


丁度来客があったようで、パパが入り口で接客していた。
和服を着ていて、髪の毛は綺麗な金で、パパより少し背が低い位の人だった。
知り合いだったのか、しばらく話し込んでいた。
そんなパパが、ふとしゃがんでポケットから包み紙を取り出した。
あれにはパパ手製の飴が包まれている。
子ども連れだったのか、飴を渡すパパ。
次にはパパの肩の向うに桜色がピョンピョン跳ねているのが見えた。
立ち上がってお客さんと話し始めるパパの足目掛けて飛びつく。
あたしが飛びついた程度ではビクともしないパパの足越しに、そーっと覗き込む。

そこであたしが見たのは、

輝く様な笑顔と、眩しく感じる様な明るい雰囲気を纏った、
とても可愛い同い年くらいの女の子だった。

「曜灯、お帰り。俺の友達で、輪音だ。」
「初めまして、曜灯ちゃん。実はわたしは曜灯ちゃんにも灯曜くんにも小さい時に会ってるんだけどね。」
見上げた先にはふわりと笑うすごく綺麗な人がいて、あたしは目が離せなくなった。
「大きくなったのね~。あ、そうだ。陽桜、ご挨拶は?」
「は~いっ!」
思わず見惚れていたけど、元気な声が目の前からしてそっちに顔を向ける。
「ひおはひおなのー!よろしくね、よーひちゃん!」
パーッとお日様に照らされる様に心が温かくなる笑顔。
こんなに眩しい女の子を、あたしは見た事がない。
「……たまきようひよ。」
気圧されてぼそりと呟く。
パパにそっと押し出されて女の子の前におずおずと立つ。
「わー、キレイな髪の毛とおめめなの!かわいいー♪」
女の子に手を握られてドキッとする。
「あ、…あの………?」
「なにがすきなのー?いつもなにしてあそんでるのー?おともだちいっぱいいるー?」
勢いに押されるあたし、目の前にはニコニコと眩しい桜色。
「ねー、ひおのおともだちになってくれる?」
あたしはその眩しさに、思わず頷いていた。

プロフィール
HN:
LJ
性別:
非公開
P R
Copyright(c)  紅小花のダイアリー  All Rights Reserved.
Material みるくきゃっと  Template かすぶろ  忍者ブログ [PR]